記念日 (これもありがち)



「さみーよ」

 なんか30回ぐらい言ってる様な気がする。雪降ってるだけならまだしも、風がむちゃくちゃ強い。そんな中で、何が悲しゅうて野郎二人で波止場にたたずんでなきゃならんのだ…つーか、この時期のこの場所って嫌な思い出しかないんだけど…

「あぁ寒いな」

 ふーっっと吐くタバコの煙が不透明純白…寒いなら動こうよ、遠藤っ!

 さっき遠藤から手渡されたホットの缶コーヒーはすでに冷たくなりつつある。

「大体なんでこんなトコに連れて来たんだよ。ここがどういう場所か、あんたよ〜く知ってるんだろっ!」

 俺はかつて、結婚式場によく使われてる名前『エスポワール(希望)』という船に乗せられ、悪夢を見た…その後の地獄めぐりに比べればまだ序の口ではあったのかもしれないが…二度と近寄りたくない、そんな場所だ。

 正月明け早々、また職にあぶれ、街中をぷらぷらしてたら、うっかり遠藤に捕まり、わけのわからぬままBMWに乗せられ、気がついたらこんな場所に…この男の車に乗るな、自分。でも結局おせちも食ってないし、久しぶりにまともなメシが食いたいんだよっ!元は俺の金なんだからメシぐらいたかったっていいじゃないか…って、どこに行ったんだろうな、俺のプライド。

「…ちょっとな…」

「うん?」

「……まねしてみたかったんだよ」

 有無を言わさず俺を引き摺って来たにしては、珍しく小声でぼそぼそ言ってる。

「なんの?」

「いまどきの若造の」

「あのなぁ…どうしてこんなトコに連れてくるのがいまどきの若造なんだ?」

 まったく意味がわからない。

「やってるだろ、付き合い始めた記念日だのなんだのって」

 言うなり、遠藤はこの寒いのに真っ赤になってうつむいた。

 …どーしよ。普段は憎たらしいのに、なんかかわいい…って、いかん。なんかの手かもしれない。

「だって、お前のアパート、もう引き払っちまった後だし、出会いのきっかけっつったら『船』しかないだろうがよ」

 だからって、こんな場所選ぶなっ!でも言ってることはかわいいんだよな。

「ともかく、車戻ろう?シャレにならん寒さだし、大体暴風雪波浪警報中だぞ?普通、外に出ないって」

「ああ…」

 とりあえずイベントをやったので満足したのか、やっと遠藤が動くそぶりを見せたとき、俺たち以外にも人気のない波止場でこの天気で外をうろつきまわる、正気の沙汰でないヤツがいた。

「遠藤さん、ちょうど良かった」

 この悪天候で純黒のサングラスと喪服のような黒スーツに黒ネクタイ…コート着なくて寒くないのか?と思う前に、嫌な予感がして、身を隠そうと思うが適当なものがなく、仕方がないので遠藤の背に隠れる。

「今日、例の船の出港日なんですけど、欠員が出ちゃって……って、おお、さすがは遠藤さん」

 黒服は獲物を見つけたらしい…って、俺かっ!

「いや、これは…」

 かばうそぶりの遠藤を尻目に、あわてて走ろうとした俺を、凍結した地面は許さなかった。つるっと足の支点が反れたかと思うと、そのままガクン…つまりこけた。

「逃げることはない。これはビッグチャンスなんだから。さぁ!」

 猫をぶら下げるように俺の首ねっこを掴まえると、ぐいぐいと黒服は俺を暗黒の船へと引き摺っていく…

「バカ遠藤っ!また騙したなっ」

「いや、違う、俺はホントに…」

 しばし呆然としてた遠藤はあわてて追いすがるが、あえなく船は出港…猛吹雪の中に消えてゆく船は、まるで津軽海峡冬景色(意味不明)





 ちなみにこの後、遠藤さんが予定していたデートプラン。

 とりあえずベイエリアのけっこうお高いホテルのスィートルーム(最初ファーストクラスのお部屋って書いてました…寒さで言語能力低下中…)で、ルームサービスで豪華なお食事(どう見てもビジネスではない男二人でレストランというわけにもいかず…そもそもカイジはカジュアル服しか持っていなかろうということで)→気分だけは初夜でいろいろと…

 いかん、普通に俗物だわ。